MtG訳記た。

モダンを中心とした(というよりはモダンの)海外記事翻訳保管庫

モダンの達人(Master Modern By Brian DeMars)

» Master Modern

より。

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  ふらふらしていると黒猫が階段を駆け上がる姿を見た。そしてその30秒後、また同じ黒猫が階段を駆け上がるのを見た。

 普通の感性ならばおおよそその黒猫が散歩しているだけだろうとしか思わないだろうが、もしマトリックスを見すぎて中毒になっているならば彼らが実はエージェントの使者であり、こちらにカンフーを決めてくるという想像をしてもおかしくないだろう。

 「デジャヴ」ーー初めての経験をまるですでに体験していたかのように感じてしまうこと。

 ここ2週間、モダンについての会話を進めていく中でこの気持ちを何度も味わうことになった。というのもどんな相手からもおなじ質問をされて、同じ答えを返していたからである。

 Dear Brianという形でこの質問は何度もされており、これはSNSに限らずプロプレイヤーからも同様のものが、どれだけ答えても飛んでくるのである。おかげでモダンについて話をするときにはその会話の流れがおおよそ予想出来てしまったのである。

 よくある質問例を、これから提示していこう。

ダンでよりよい成績を残すには?

 これはPPTQモダンシーズンになった時に最もよく聞かれるものである。

 モダンについて皆がよく知っているのは勝率を高く保つことが相当に難しいフォーマットであり、60%を超えることも難しいといえよう。GPやPPTQどころか、草の根トーナメントでもそんなことが起こりうるのである。

 そしてこの質問がでてくるのだ。僕は実際にGPやSCGOでそれなりの成功を収めているがために、それを参考にしたいという人もいるのだろう。高い勝率を収めるための術、その秘密を語っていきたいと思う。

ダンにおける伝説

 モダン環境には検証もされていないような言説が時々見受けられる。きちんとした科学的見地からそれについて考えていきたいと思う。

 その代表例がこれらだ。

ダンは多様性がありすぎて実力を試せるようなフォーマットではない。

マッチアップに大きく依存するフォーマットだ。

 このような言説はつまり、こういうことになる。

実力に関係なく運さえあれば勝てるフォーマットだ。

 勝てないプレイヤーはおおよそこのような言い訳をして自身を正当化しようとする。

 ……とはいえ実際に多様性は全フォーマット一高いと言っていいし、マッチアップによる相性差が大きいことも確かだ。

 では、これらについて検証していきたいと思う。

ダンは多様性に溢れすぎていて、実力が反映されにくいフォーマットだ。

 マジックというゲーム自体は、多様性と実力の高さ、そのどちらも評価してくれるゲームである。そう、どのようなゲームにおいても。僕は声高にいいたい。

ダンは多様性があるが、それでもなお、いやだからこそ実力が反映されやすいフォーマットである 。

 と。僕はもともとヴィンテージプレイヤーであり、本当に熱心にヴィンテージについての研究を重ねてきた。御存知の通り、ヴィンテージのマジックは他のフォーマットと違い、一瞬でマナ加速が進んでしまう。Black Lotusに限らず、Moxenだけで大きくそのゲームは変動してしまうのだ。

 そしてここで気がついたのが、一旦慣れてしまえばそのフォーマットの理不尽さを当然のものと受け入れることができるようになるのだ。相手が理不尽だとしたらこちらのデッキも当然理不尽なものになるはずなのである。なにせ異なるフォーマット同士のデッキを戦わせているわけでもない。同じプールから作られたデッキを戦わせているだけなのだ。それに合わせてデッキを、そして自身を調整していけば相手の理不尽さに適応することは十分可能だろう。

 たしかにモダンはスタンやレガシーに比べて1〜2マナの動きが多量にありすぎるために、本当に高速な環境になってしまっている。3T目には実質的に勝負が付いているなんてことも十分有り得る。こんなことはスタンやリミテでは少なくとも起こらないし、あったとしても4Tギデオンや5T機械巨人、ないしは深海鬼くらいであるだろう。

 モダンにおける最高のデッキとは、モダン自身が今そう示しているように、最初の数ターンを最高の状態で駆け抜けられるもの、ということになる。

マッチアップが全てと言ってもいいフォーマットである。

 これに関しては環境の高速化が理由としてあげられるだろう。相手に干渉できるターン数が少ないために、またはそんなものを無視してくるデッキが多いためにそのようなことが起こる。

僕のデッキ、いつもあのデッキに負けるんだけど。

 よくある質問だ。

「で、サイドボードはどうやったの? 」

「それらのカードは役に立った?」

「だめだった?じゃあサイドボーディング検討しなおしてから出直しておいで」

 以上だ。 

ダンで勝つには

 マッチアップに関して、はっきりとした解答を出していないが、少々ここで話を転換させたい。先の質問への解答のためにはこの話が必要となるためだ。

 まず、これがモダンで勝つために僕達が取るべき究極の手法である。

  1. 先のトーナメントで勝っているデッキを探す
  2. そのアーキタイプについて、キチガイじみたレベルで理解できるまで練習する
  3. 大会のメタにあわせてデッキを微調整する 

  要するに、「理」より「情」に流され、自分のデッキが旋風を巻き起こすと思っているプレイヤーが多すぎるのである。

 はっきり言おう。モダンはそんなに甘いフォーマットではない。

 少なくともモダン環境には25程度のトップメタにあたるデッキが存在するし、実際に勝者となったデッキの種類もこの程度になるだろう。全てのデッキを見渡せば、きっと自身のプレイスタイルに合致するデッキに出会えることだろう。そこからデッキ作りを始めていく必要があるのだ。

 ここで重要となるのが、別にモダン環境で重要な事は「最適解を使う」ことではなく、「いかに自分のデッキを理解し、戦えるか」という点に尽きる。

 「モダンでより良い成績を残すには」と聞いてくるプレイヤーはおおよそ様々なデッキを試しては没にしているプレイヤーなのだ。それらのプレイヤーが、様々なトーナメントにおいて負けてしまうのは、単にメタゲームの敗者となったわけではなく、デッキに対する探求が他のプレイヤーに負けているからというその一店につきる場合が多いのである。

 例えば毎週草の根レベルの大会であったとしても同じデッキを使い続けているプレイヤーは、たとえ有名でなくても、少なくともそのデッキについてはきちんとした理解を収めることができているのだ。逆に勝率の低さはそのデッキへの理解不足となっている部分が大きい。相手は自分よりもっているデッキの理解力が高いのだ。それに対抗するには自身も確固たる信念をもち、一つのデッキを研究していくのが一番といえるだろう。

 「使える」ことと「理解している」ことには雲泥の差がある。その差が実際のプレイにも現れてしまうのだ。「このハンドはキープしていいのか」「このハンドは攻めるべきか、守るべきか」……。経験がモノをいう世界であるのはもちろんであり、より理解が深ければたとえハイリスクであったとしてもリターンの大きな行動に乗り出すこともできるだろう。

 脳死プレイはたしかに簡単である。実際簡単に勝利をもぎ取れるようなことも有る。とはいってもきちんとした理解が、そのデッキの勝敗の分水嶺をこちら有利なものへと変化させることができるのだ。

 例えば僕のそれはアブザンカンパニーだった。正直今このデッキはTier1に当たるデッキなどでは到底ないし、もう流行遅れのデッキと言ってしまっていいだろう。しかしAriがPT Atlantaでこのデッキを使っているのを見て、これこそが僕が使うべきデッキだと決心したわけである。

 実際8ヶ月がそれから経ち、デッキリストはより僕のプレイスタイルにあったものへと変貌した。

Abzan Company

Brian DeMars

Lands
4 Verdant Catacombs/新緑の地下墓地
4 Windswept Heath/吹きさらしの荒野
2 Marsh Flats/湿地の干潟
1 Godless Shrine/神無き祭殿
2 Razorverge Thicket/剃刀境の茂み
2 Overgrown Tomb/草むした墓
2 Temple Garden/寺院の庭
2 Gavony Township/ガヴォニーの居住区
2 Forest/森
1 Plains/平地
1 Swamp/沼
Creatures
4 Birds of Paradise/極楽鳥
3 Noble Hierarch/貴族の教主
2 Viscera Seer/臓物の予見者
1 Scavenging Ooze/漁る軟泥
2 Melira, Sylvok Outcast/シルヴォクののけ者、メリーラ
2 Anafenza, Kin-Tree Spirit/族樹の精霊、アナフェンザ
1 Courser of Kruphix/クルフィックスの狩猟者
2 Tireless Tracker/不屈の追跡者
2 Eternal Witness/永遠の証人
4 Kitchen Finks/台所の嫌がらせ屋
1 Fiend Hunter/悪鬼の狩人
3 Wall of Roots/根の壁
Spells
2 Path to Exile/流刑への道
4 Collected Company/集合した中隊
4 Chord of Calling/召喚の調べ
Sideboard
4 Fulminator Mage/大爆発の魔道士
1 Anafenza, the Foremost/先頭に立つもの、アナフェンザ
2 Tireless Tracker/不屈の追跡者
1 Maelstrom Pulse/大渦の脈動
1 Abrupt Decay/突然の衰微
2 Qasali Pridemage/クァーサルの群れ魔道士
2 Voice of Resurgence/復活の声
1 Courser of Kruphix/クルフィックスの狩猟者
1 Kataki, War's Wage/戦争の報い、禍汰奇

 このリストをずっと使っていれば、このデッキがいかに調整されたものであるかについて驚いてくれることだろう。

 今回このデッキに加えた一番大きな変化はテューンスパイクパッケージを抜き、追跡者を代わりに入れた点にある。僕の場合には、コンボを決めることよりは相手との消耗戦を耐えぬくほうが都合がいいと判断したのだ。

 そう、これこそ、僕の言いたいことなのだ。確かにテューンスパイクは素晴らしいコンボである。しかしながら追跡者のほうがより丸く強いカードであるという点にあるのだ。多くのゲームを経験する中で、どちらのパッケージのほうがより今のメタゲームに合致しているかを知ることができたのだ。

 アブザンカンパニーを使い続ける中で、この構築に至ることができた。戦略から攻め方から、サイドプランに至るまでその多くをより良いものに昇華することができたのだ。カンパニーについての話をしていると「どうしてこのカードを入れていないの?」という質問をよく受けるが、それを他のカードと比較した結果入れていない理由を最低でも5つは言えるようになっている。それほどに僕はこのリストを十分に理解しているのだ。

 ……さて、多様すぎてマッチアップに大きく依存してしまっている、クソフォーマットではないのか、という話に戻ってみよう。

 アブザンカンパニーにとって最悪のマッチアップといえるのが赤緑トロンである。無限ライフを決めようとも簡単に盤面を掃除され、別方面から攻められて死んでしまうことになる。……とはいえ僕は赤緑トロンにははじめの1回以外、実に8連勝をGPやSCGOで決めている。

 最初の負けでどれほどにこのマッチアップが不利なものであり、そしてその改善にどれほどの努力が必要となるのかについて学ぶことができたのだ。そしてそれについて詳しく検討する中で、様々なデッキにそれなりの確率で機能してくれるギミックを突っ込むよりかは、その特定のマッチアップでしか輝かなくても確実に作用するものを搭載すべきだと気づくことができた。そう、大爆発の魔道士である。

 モダンはプレイスキルを高く要求してくる上に、思考する力も大きく求めてくる素晴らしいフォーマットだ。自分のデッキをどれほどに理解しているかに勝敗が大きく左右される。

 最後に、モダンで勝ちたいというプレイヤーに伝えたいのは、(口を酸っぱく言っているが)デッキを探し続けた結果強いけれどわかっていないデッキを使うよりかは自分のデッキをより練り上げたほうが強くなる可能性が高いということだ。

 モダンは相性ゲーなどではない。れっきとした実力ゲーだ。自身にとって最高のデッキを、自分のものにしつづけるのだ。